(文責: 青野 雅和)
トランプ大統領が「気候変動」を否定する発言をしている。最近では脱炭素化原理主義なる言葉も見ることとなり、脱炭素化詐欺、脱炭素化疲れ等の主張をすることで、世論を二分しかけている状況だ。アメリカの経済減衰の原因としてのスケープゴートとして政治利用すると思われるのであるが、否定された脱炭素化関連投資は化石燃料セクターに再投資されるのであろうか?報道で言及されているように、石油と天然ガスを掘りまくるのか?トランプ大統領の発言で喜んでいるのは燃料の先進技術を保有しない化石燃料生産企業であり、SAFの生産技術を保有する米国の燃料生産企業は喜ばないであろう。
トランプ大統領は「アメリカは先進技術を持っていないから、安いコスト構造や既存井インフラ技術に甘えるんだ、甘えさせて」と叫んでいるように聞こえる。言い換えると、「技術を保有していない弱みをさらけ出している」ともとれる。
USスチールのトランプ大統領のしつこいディールへの介入も違和感を感じていた。USスチールが売れなくなった主な理由は、過去に日本や西ドイツの製鉄企業との競争に負け、生産量が大幅に減少したこともあるが、最新技術への対応遅れではなかったか。
因みに、USスチールは、グリーンスチール製造プロセスに重要な脱炭素化を排出が少ない電炉ミニミルを保有する「Big River Steel」を子会社として保有している。2014年のスタートアップ企業である。子会社の技術を親会社全体の事業方針として拡張投資できる投資タイミングや財務体力が無かったことが、技術を活かせなかった一因なのであろうか。
さて、筆者は、トランプ大統領の一連のアメリカファーストの発言をメディアで耳にすると、日本の技術共創及び競争に長けた会社は有利に立てるのでないかと感じてしまう。読者の皆様はどう見ているのであろうか。
話を元に戻そう。トランプ大統領が「気候変動」を否定する発言を聞いている現在、既にSAFやその他バイオ燃料の生産(グリーンリファイナリー)の技術に舵を切っている多くの燃料生産企業が、化石燃料の生産にタイムスリップするのでろうか?
EUはグリーン水素由来の製品市場をローンチさせている。SAF・HVO・グリーンメタンやグリーンアンモニアの燃料市場、グリーンスチール製造市場である。アメリカはコスト追求の為に化石燃料市場に逆行し、技術の社会導入に遅れる恐竜になりたいのであろうか。「安かろう、悪かろう」はアメリカの言葉ではなく、日本の戒めの言葉か。
宇宙技術、生化学・製薬技術、通信技術など全てのセクターで先進技術が生まれ、その技術は追求され、社会に浸透していく。では、エネルギー業界は技術進化から逆行するのであろうか?仮に、「気候変動が温室効果ガスの影響受けていない」とアメリカは定義していくとしても、エネルギー業界は進歩するのではなかろうか。電気自動車や燃料電池自動車は、昔は存在しなかった。技術進歩の結果、生まれた技術である。燃料も昔は石炭、木材、動物・植物由来の油しか無かったが、石油、天然ガスと種類が増え、今や水素を燃料としてコントロール出来、e-Fuel(合成燃料)まで燃料も多様化出来る時代となっている。燃料の多様化は適用対象をまた多様化する。多様化した燃料は、機能も進化する「持ち運びに便利、爆発しにくい、軽い、エンジンに悪影響を与えない。」等々、選択枝が広がる。その意味では燃料業界も進化していると考えて差支え無いのではと考える。
本当に脱炭素化及び脱炭素化技術は経済活動の減衰に直結しているのであろうか?今後の地球環境の保全に役立つかもしれないし、新しい視点・産業として考えていけばネガティブな視点に立つ必要もない。それこそ二酸化炭素は合成燃料の原料となり、空中に限りなく無限に存在する無料の原料だ。二酸化炭素が気候変動に影響するリスク要因であると仮定して、そのリスク要因をばらまく化石燃料よりも、そのリスク要因を原料として燃料を作る方がリスク管理の視点としては望ましいのではなかろうか。リスク要因が消えていくからだ。
さて、そのリスク要因を減少させる技術がある。CDR(二酸化炭素除去:Carbon Dioxide Removal)である。この技術は大気や海水から二酸化炭素を除去し、永続的に貯蔵する技術、実践、アプローチであり、吸収した二酸化炭素の出口戦略は原料として合成燃料やその他の製品を製造することである。
過去には環境のリスク要因は他にもあった。日本でいえば経済成長に起因して、産業廃棄物が増加して最終処分場(ゴミの埋め立て地)をどんどん新設する必要があった時代があった。リサイクル技術はこうした課題を解消するために、当時日本では3R:reduce, reuse, recycleと呼ばれ、環境と経済の両立として提唱されたが、今や繊維業界ではペットボトルは繊維製品の原料として必要なものである。
脱炭素化は省エネと創エネである。特に省エネはコスト削減に直結する。経営者から見れば、分かり易いコスト削減の対象である。
さて、経営者にはコスト削減が必要であるが、物価高は悩みの種である。日本の物価高は食品のみならず、エネルギーコストも上昇している。米国も多くの国と同様にエネルギーコストは上昇している。米国のエネルギー自給率は米国では2000年代後半に起こった「シェール革命」により、米国では化石燃料(原油と天然ガス)の国内生産量が大きく増加した。さらに再エネも増加したことで、米国のエネルギー自給率は上昇した。2021年時点の一次エネルギー自給率は、103.5%と国内でエネルギー生産をほぼ賄える状況にある。一方、米国の再生可能エネルギーの電力比率は2021年度で約20.9%(日本は約20.3%と同等レベル)である。トランプ大統領の発言は、この再生可能エネルギー電力20.9%分を天然ガスと原油生産に代替するとなるが、本当に代替できるのであろうか。これから化石燃料の生産を拡大しても市場に出回るのは数年後。エネルギー価格は安くなるのは何時であろうか。
果たしてアメリカファーストの視点は何処に辿り着きたいのか、辿り着くのか。
協調性の無い振る舞いは、組織でははじき出されることが定説だが、果たして。