第五次循環型社会形成推進基本計画(以下「第五次計画」)は、循環型社会形成推進基本法に基づき 2024 年 8 月 2 日に閣議決定された5年スパンの国家計画である。大量生産・大量廃棄のリニア経済から循環経済(CE)への転換を「産業競争力・経済安全保障・地方創生・ネットゼロ・ネイチャーポジティブ」を同時に達成するレバレッジポイントと位置づけ、2030 年を主要マイルストーンとして数値目標を設定している。以下、①全体目標・指標、②5本柱の施策体系、③横断施策・ガバナンスの順に詳細を整理する。
1. 位置づけ・期間
- 法的根拠:循環型社会形成推進基本法(2000)第15条。
- 策定経緯:中央環境審議会答申(2024年7月)→閣議決定(2024年8月2日) Ministry of the Environment, Japan
- 計画期間:2024〜2029年度を想定(概ね5年ごと見直し)。
- 2030ターゲット年:本計画の主要KPIを設定し、長期ビジョンは2050年の循環経済完全実装を展望。
2. 全体目標と10の基本指標(2030年目標値)
指標区分 | KPI(2030) | 意義 |
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資源生産性 | 60 万円/トン | 経済と資源投入のデカップリング Ministry of the Environment, Japan |
一人当たり天然資源消費量 | 11 t/人 | 資源消費抑制の総合指標 Ministry of the Environment, Japan |
再生可能資源+循環資源投入比 | 34 % | Renewable + Recycleの統合管理 Ministry of the Environment, Japan |
入口側循環利用率 | 19 % | 原材料投入段階の循環化 Ministry of the Environment, Japan |
出口側循環利用率 | 44 % | 廃棄段階での循環化 Ministry of the Environment, Japan |
最終処分量 | 1,100 万トン | 埋立依存の最小化 Ministry of the Environment, Japan |
CE関連ビジネス市場規模 | 80 兆円(2050 年120 兆円) | 新産業創出 Ministry of the Environment, Japan |
国民の3R行動率 | 50 %/意識喚起90 % | 行動変容の定着 Ministry of the Environment, Japan |
CE関連部門GHG排出量 | 3.43 億 t-CO₂eq以下 | ネットゼロへの寄与 Ministry of the Environment, Japan |
エコロジカルフットプリント | CFP除き低減 | ネイチャーポジティブの定量化 Ministry of the Environment, Japan |
3. 五つの柱(重点分野)と代表施策
① 循環経済への移行による持続可能な地域・社会づくり
- CEを国家戦略に格上げし、公共調達で循環性基準を全品目に導入(2025〜2030)
- 消費者向けデジタル情報(DPP, ラベル)で低環境負荷製品選択を誘導
② 事業者間連携でライフサイクル全体を徹底循環
- 重点資源別ターゲット
- 製品設計段階で再生材・長寿命化を義務化するリサイクル各法の横串改正
③ 多種多様な地域循環システムの構築と地方創生
- 地域循環共生圏(CES)を核に150自治体が食品ロス半減・バイオマス循環等を実装
- 1人1日当たりごみ焼却量を約580 gへ削減
④ 資源循環・廃棄物管理基盤の強靭化と適正処理
- デジタル技術導入(AI選別、ブロックチェーン追跡)でトレーサビリティ強化
- 災害廃棄物処理システムを重層化し、老朽インフラは広域集約+長寿命化
⑤ 国際資源循環体制と循環産業の海外展開
- J4CE, アジアCE連携でルール形成リーダーシップ
- 資源循環インフラ輸出と国際リサイクルハブ港湾の整備
4. 横断施策・実装メカニズム
項目 | 概要 |
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DX/データ基盤 | 製品パスポート、再生材品質DBでバリューチェーン可視化 |
サステナブルファイナンス | 地域循環ファンド創設、ESG投資でCE企業価値反映 |
人材・教育 | 小中高カリキュラムにCEを導入、専門技術者育成 |
情報開示 | バリューチェーン循環性指標と統合報告の義務化を国際標準へ先取り Ministry of the Environment, Japan |
フォローアップ | 年次レビュー+行政事業レビューでPDCA、5年後見直し |
5. 実務者への示唆
- サプライチェーン連携必須:2030 KPIは材料調達〜顧客回収を一体で管理しなければ達成困難。
- 投資循環の早期確保:80 兆円市場拡大を見据え、再生材・リユースサービス・デジタル管理の事業機会が拡大。
- 地方自治体案件:CES補助枠を利用した地域プロジェクトは官民協働の入口。
Key Takeaways
- 第五次計画は「循環経済=国家戦略」として位置づけ、2030 年に資源生産性60万円/トン等10指標を設定。
- 5本柱で全国・企業・地域レベルの具体策とセクター別数値目標を提示。
- DX・ファイナンス・教育を横串に、CE市場80兆円を創出しつつネットゼロ・地方創生を同時達成するロードマップである。