ドイツにおけるホワイト水素の現状 ~フランス、スペインに追随して事業化が進むか~
(文責: 青野 雅和)
ドイツでは2023年に水素国家戦略[i]が連邦経済・気候行動省(BMWK)より公表されているが、ホワイト水素に関しては「現在各国で研究されている」とのみ記されており、その扱いについては特段言及されていない。また、ドイツ連邦地球科学天然資源研究所(Bundesanstalt für Geowissenschaften und Rohstoffe :BGR)[ii]は、「21世紀にホワイト水素を燃料として利用できるかどうか、またどの程度利用できるか」については、まだ科学的に答えることはできないと述べている。
ドイツの水素の展開についてはグリーン水素やグリーンアンモニアによる輸送を自国での製造のみならず、海外からの輸入に頼ることとし、「水素輸戦略[iii]」を策定している。また、水素の利用に関しては、トラック等の物流や家庭での利用、またグリーン製鉄の展開により、自国の自動車産業に還元していく方針である。このように現状の水素の調達は堅実に実施しており、ドイツのホワイト水素に関しては日本で紹介されることはなされていないと推察する。弊社でも過去、アフリカ、豪州を中心にホワイト水素の現況を2年にわたり紹介してきた。本稿ではドイツにおけるホワイト水素の調査事例を紹介する。
1. ドイツとフランスの国境付近
ドイツ、ベルギー、ルクセンブルクに隣接するロレーヌ地方のFolschviller鉱山[iv]で2023年、エネルギー企業フランセーズ・ド・レネルジー(FDE:Française De l'Énergie)の委託を受けたロレーヌ大学の地質学者ジャック・ピロノン氏率いる研究グループが、ドイツとフランスの国境付近に水素貯蔵層を発見した。推定埋蔵量は最大2億5000万トンに達する可能性(世界全体の年間生産量の2倍に相当する。)があるという。
フランセーズ・ド・レネルジーは現在、さらに深いところまで掘削して鉱床の正確な規模を決定したい考えだ。成功すれば、遅くとも2028年までに生産を開始するとのこと。
2. バイエルン州北部のハスベルゲン
バイエルン州北部のハスベルゲンで、フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン・ニュルンベルク校(FAU:the Friedrich Alexander University Erlangen-Nuremberg)の研究者たちが、「バイエルン州北部の天然水素」という研究プロジェクトで推進している。土壌空気の測定において、彼らはセンサーの測定上限である1000ppmを超える水素濃度を計測したという[v]。本プロジェクトマネージャーであり、ハラルド・シュトルホーフェン教授の地質学講座講師でもあるユルゲン・グレッチ博士は、水素の高い測定値は、バイエルン州北部に商業的に採算の取れる天然水素鉱床が存在するという仮説を裏付けているという。
この研究プロジェクトはコンソーシアム化しており、北バイエルン地質センターのメンバーに加え、フラウンホーファーIEG、アーヘン工科大学、ライプニッツ応用地球物理学研究所(LIAG)、カールスルーエ工科大学(KIT)、ドイツ地球科学研究センター(GFZ)の研究者が参加している。
ドイツの今後の展開と課題
今後はホワイト水素に関しての法的枠組みの整備が待たれるところである。前述のスペインやフランスを含む中央ヨーロッパでは純粋なホワイト水素はまだ事業化されていないため、ほとんどのEU加盟国では明確な規制がない。例外はフランスで、同国は2022年4月に鉱業法にホワイト水素の生産を盛り込んだ。
一方、ドイツではホワイト水素は連邦州における連邦鉱業法(Bundesberggesetz - BBergG)における鉱物資源として定義されておらず、採掘が出来ない状態である。岩塩洞窟等の地下水素貯蔵施設の探査と運用にも適用されているが、ホワイト水素の水素採掘権を付与するための法的枠組みが存在していないのである。
ドイツの今後の展開
ドイツにおけるホワイト水素は、上記2の事例のように未だアカデミアが研究として推進している状況であるが、欧州では上記1に挙げたフランスの大手エネルギー企業フランセーズ・ド・レネルジーが具体的な商業ロードマップを描いていること。またスペインのHelios Aragon Exploracion社がアラゴン州モンソン(Monzón)にて、2028年に生産を開始の予定としており、2件の商業レベルでのホワイト水素生産プロジェクトが推進している。また、ポーランドでは、2024年AGH科学技術大学、国立地質研究所、ポーランド科学アカデミー鉱物資源・エネルギー研究所の3者が天然水素鉱床の探索への共同参加に関する「ポーランド天然水素イニシアチブ」を設立する協定を締結した。そのポーランドにはHelios Aragon Exploracion社がポーランドに新たな子会社を設立している。ドイツ以外の中央ヨーロッパでは、ホワイト水素の商業化が進みつつある。
そして、水素の調達を拡大したいドイツではホワイト水素の商業化が進むと筆者は推察している。
残念ながらドイツでは、上述の事例のようにサイトの発掘と埋蔵量の算定がこれから進んでいく段階であるが、ドイツはグリーン製鉄などグリーン水素のオフテーカーが明確化している。グリーン水素の各国とのパイプライン化も活用しながら欧州のホワイト水素を含むグリーン水素の調達がドイツでは進んでいくであろう。
引用
[i] https://www.bmwk.de/Redaktion/EN/Hydrogen/Dossiers/national-hydrogen-strategy.html
[ii] https://www.bgr.bund.de/EN/Home/homepage_node_en.html
[iii] https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Pressemitteilungen/2024/07/20240724-importstrategie-wasserstoff.html
[iv] https://polenergie.org/ressources/actualites/hydrogene-natif-bientot-en-hauts-de-france/
[v] https://www.fau.eu/2024/11/news/natural-hydrogen-the-treasure-hidden-underground/#:~:text=Will%20natural%20hydrogen%20be%20a,one%20meter%20below%20the%20surface.