EUでは自動車・トラックのHVO対応エンジンが普及しつつある中、ドイツのバイオディーゼル生産量は過去最高を記録

(文責: 青野 雅和)

ドイツの自動車メーカーはHVO対応エンジンを順次開発している

 昨年12月に自動車世界大手ドイツBMWは12月12日、ドイツで生産されるすべてのディーゼル・エンジン車両の初期充填を水素化処理植物油100%燃料の「HVO 100」に切り替えると発表した。2025年よりドイツ国内で製造するディーゼル車に工場出荷時の燃料として「HVO100」バイオ燃料を充填する。採用するのはNeste社のリニューアブル・ディーゼルで、BMWの工場物流用のトラックでは既に実績がある再生可能燃料だ[i]。乗用車やトラックにおいて既存のディーゼル・エンジンへのHVO燃料対応は、欧州で進んでいる。乗用車ではVW、BMW。トラックではMelsedes,Man,Volvoなど多くのメーカーでHVO燃料の適用対応が進んでいる。これはHVOのガソリンスタンドでの価格が軽油の1割増し程度、そしてCO2が軽油と比較して90%削減を達成することが利用の付加価値として挙げられる。欧州では欧州規格EN15940および米国規格ASTM D975に準拠したHVOをが販売されており、前述のCO2削減のみならず粒子状物質の排出量は最大30%、窒素酸化物(NOX)の排出量は最大10%削減されるというメリットがある。

ドイツはヨーロッパ最大のバイオディーゼル生産国であり菜種が主な原料

 元々、ドイツはヨーロッパ最大のバイオディーゼル生産国であることもオフテーカーが多い理由として挙げられるだろう。ドイツ・バイオ燃料産業協会(VDB[ii]:Verband der Deutschen Biokraftstoffindustrie eV)の最新の統計データによると、2024年にはドイツで合計約360万トンのバイオディーゼルが生産されている(図1参照)。

図1 ドイツのバイオディーゼルの生産量と販売量の推移

出典:Destatis; VDB; BAFA鉱油公式データ Destatis、VDB、BAFA、鉱油公式データ

 では、バイオ燃料はどのような原料から製造されているのであろうか?生産量360万トンの内訳は図2となる。バイオディーゼルの原料はほぼ半分が菜種由来である。使用済み食用油のシェアは24.1%で2位、次いで大豆の15.0%である。動物性油脂は、2021年以降、ドイツのバイオ燃料生産の原料としてのみカウントされ、これまでのところ2%を占めている。
 これとは対照的に、パーム油はドイツ国内のバイオディーゼル生産と燃料利用においてもはや製造原料ではない。熱帯雨林由来のバイオディーゼルやHVOは、2023年以降、温室効果ガス割当量の達成にカウントされなくなったからである。ドイツでは持続可能性認証であるREDcertが存在し、バイオ燃料製造のための農業原料が持続可能な方法で栽培され、かつての熱帯雨林地域や草原、泥炭地から産出されないことを保証することとなっている。栽培からバイオ燃料生産までのバリューチェーン全体が、独立した公認監査人によって監視・認証されているのだ。廃棄物や残渣を原料とするバイオ燃料の場合、農作物の栽培ではなく、原料の収集が持続可能性に関する文書の一部となる。EU委員会は、認証制度を認可する責任を負っている。このため、ドイツのバイオディーゼル業界は、持続可能性という点ではパイオニア的存在となっている。

図2 バイオ燃料の原料比率

出典:VDB

混合バイオ燃料は増加傾向     

 ドイツのガソリンスタンドでは、100%HVOの燃料はXTLと表示され販売されている。その他10%、7%のHVO混合燃料はそれぞれB20、B10、B7と表示され販売している。下記図3に2023年1月~2024年12月まで販売された混合バイオディーゼルの量と、図4にバイオディーゼルの混合率を記載した。

図3. 混合バイオディーゼルの量

出典:BAFA(連邦経済輸出管理局)

図3. バイオディーゼルの混合率(%)

出典:BAFA(連邦経済輸出管理局)

 UFOP(油・タンパク質作物振興連合)はB7のHVO混合燃料が温室効果ガス削減義務を果たすことが可能であることから、連邦経済省と連邦経済・輸出管理局(BAFA)に対し、透明性を確保するため、将来的には公式統計にHVOの割合も記載するよう改めて要求している。UFOPでは、欧州における生産能力が約500万トンに増加し、燃料取引業者や輸入業者の数が増加していることを指摘し、この要求を強調している。
 2025年に導入される、持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel)の使用枠を考慮すると、HVOの需要は増加すると予想される。なぜならHVOはSAFの連産品(図5参照)のため、HVOが市場に供給され、HVOのCO2削減メリットを享受したいユーザーは多いと予測されるからである。

図5 HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)製造工程におけるSAF及びHVO

出典: McKinsey Global Energy Practice; ICCT; International Renewable Energy Agency (IRENA); expert interviews

 日本においてはHVOの社会における利活用の認識が為されていないが、今後はSAFの普及とともに一般的な言葉として馴染んでいくと予想される。日本政府は税制や基準設定を準備している段階であり、準備が整うには来年、もしくは再来年であろうか。2025年の3月25日に経済産業省の第18回 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会[iii]でHVOの税制への適応課題等を検討している。日本においてHVOの市場供給時期が早くなることを期待したい。

引用

[i] https://www.bmwblog.com/2024/11/21/bmw-hvo100-diesel-cars-2025/

[ii] https://biokraftstoffverband.de/biokraftstoffe/biodiesel/

[iii] https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/nenryo_seisaku/018.html