日本におけるバイオ燃料政策のベンチマークとなるか? 米国はクリーン燃料クレジットプログラム(IRC45Z)で再生可能燃料の支援が開始される

(文責:坂野 佑馬)

 2025年1月1日から米国でクリーン燃料製造クレジット(IRC45Z)が導入されている。[i]IRC45Zとは、2022年に発表されたインフレ抑制法(IRA)[ii]に基づいた税額控除のプログラムで、2025年1月1日から2027年12月31日までに生産される「持続可能な航空燃料(SAF)」を含む低排出輸送用燃料の製造・販売に対して税額が控除される。IRC45Zの税額控除額は、燃料の種類とそのライフサイクル温室効果ガス(GHG)排出削減率に基づいて決定される。例えば、道路輸送用燃料の場合、GHG排出削減率に応じて最大で1ガロン(約3.79 L)あたり1ドルの税額控除が適用される。SAFでは、最大で1ガロンあたり1.75ドルの控除が提供される。

 本稿では、このIRC45Zを運営していく上で必要となる、ガイダンス案の概要を説明させていただく。
 IRC45Zのガイダンス案においては、① 対象主体、② 対象燃料、③ クレジットの算出に必要なGHG排出量算定ルールを明確化している。

  1. 対象主体の要件
  • 米国国内で製造されたクリーン燃料(燃料の混合など、化学変化を伴わない最小限の加工は、製造とはみなされない。)
  • 製造したクリーン燃料を課税年度中に販売すること
  • 燃料の製造時にクリーン燃料製造者として登録されていること
  1. 対象燃料の要件
  • 燃料が単独もしくは混合された状態で、「高速道路用車両や航空機に使用するための実用的または商業的な適合性」を有していること
  • 熱や電力を供給するために消費できる液体や気体の物質であり、電気は明確に除外される
  1. クレジットの算出に必要なGHG排出量算定ルール
  • クレジットの算出に必要なGHG排出量算定ルール
  • SAF: 45ZCF-GREETまたは国際民間航空機関(ICAO)の「CORSIA Default」もしくは「CORSIA Actual」基準を使用可能
  • SAF以外の輸送燃料: 米国エネルギー省のArgonne National Laboratoryが開発した輸送用燃料のライフサイクルGHG排出量算定ルール「45ZCF-GREET」[iii]を使用

 なお、今回のガイダンス案は90日間のパブリックコメントを経た後に規則化されるため、トランプ新政権下での公布・施行となる。ただ、トランプ大統領は「インフレ抑制法(IRA)の未使用資金をすべて撤回する。」と公言している為、IRC45Zが白紙となる可能性は十分考えられる。とは言え、継続施行された場合にIRC45Zは、再生可能燃料を手掛ける企業だけでなく、原材料となる農作物を生産する農家にとっても大きな追い風となる為、トランプ大統領も無碍に撤回できないものと推察する。例えば、再生可能ディーゼルの一つとして注目されるHVO(Hydrotreated Vegetable Oil)の原料として、米国では大豆やキャノーラ、カリナタ(非食用油糧作物)、カメリア(非食用油糧作物)などの農作物が認められている。
 IRC45Zプログラム利用は再生可能燃料の支援策となる一方で、精密なGHG排出量算定が求められるため、データ管理や認証取得に関するコスト負担が課題である。原材料を生産する農家も巻き込んだ算定が必要となるため、対応が困難となるケースもあるかもしれない。

 日本においても、2050年カーボンニュートラル実現に向けた取り組みが進む中、今回の米国の政策は重要な参考例となりえるだろう。特に、ライフサイクル排出量を重視したインセンティブ設計は、日本のバイオ燃料や再生可能エネルギー政策にも応用可能であると考える。GHG排出量算定のためのモデルや認証制度の導入は、日本企業が国際的な競争力を維持する上で欠かせない要素となってくるのではなかろうか。米国の動きを注視しつつ、欧州や日本国内での同様な展開も追っていきたい。

引用

[i] https://www.irs.gov/credits-deductions/clean-fuel-production-credit

[ii] https://home.treasury.gov/policy-issues/inflation-reduction-act

[iii] https://www.energy.gov/eere/greet