ドイツ政府は気候保護契約において企業のCCU事業を推進 ~CCU の資源としての法的根拠を明確化し、EU-ETSでの取引を視野に入れ市場を積極創出へ~

(文責:坂野 佑馬)

 全世界規模でカーボンニュートラルやネットゼロが目指される中、鉄鋼やコンクリート、化学製品など脱炭素化が難しい領域において、CO2を分離して集め、新たな製品の製造に利用する技術であるCCU(Carbon Caputure and Utilization)が“脱炭素化の切り札”として注目を集めている。本稿においては、ドイツにおけるCCUに関連した戦略・政策をご紹介したい。

 まず初めに、2024年12月4日にドイツ連邦政府が採択した国家循環経済戦略(Nationale Kreislaufwirtschaftsstrategie;NKWS)[i]の中でCCUについて触れられているので紹介する。同戦略は、ドイツにおける一次資源の消費削減、物質循環の促進および廃棄物削減を目的としたものであり、2045年気候中立(すべての温室効果ガス(GHG)について排出量を正味の排出量をゼロの状態にすること)の実現を支える戦略の1つである。
 NKWSの中で、CCUはドイツの循環経済の一端を担う技術としての重要性が語られており、特に化学産業や建設業における脱炭素化に大きく寄与するものであるとして期待するとされている。また、NKWSではCCUはバイオマス、水素、リサイクルプロセス・技術と同時に論じられるべきであると記載されており、NKWSは炭素管理戦略(Carbon Management Strategie ; CMS)[ii]、国家バイオマス戦略(Nationale Biomassestrategie ; NABIS)[iii]、国家水素戦略(Nationale Wasserstoffstrategie ; NWS)[iv]等の既存の各政策との連携が肝要になると強調されている。

 上記CMSに関しては、弊社NEWS(2024年11月1日公開)にて公開された草案について紹介させていただいているが、未だに協議中の段階である。CMSが目標とするのは、ドイツにおけるCO2の回収、CO2輸送、CO2貯蔵(Carbon dioxide Capture and Storage ; CCS)および利用(CCU)のための技術を、特に回避が困難または不可能な排出に関して利用するための枠組みを構築することであり、いわばCCU/CCSの展開戦略である。2024年9月11日に公表されたCMS草案の中では、6つの具体的な行動分野が示されているが、本稿では行動分野「CO2の利用(対策15~18)」および「CCS/CCU立ち上げのための市場枠組みとインセンティブ制度(対策29~38)」において記載されている情報を掘り下げて以下に紹介する。

【CMS草案における行動分野「CO2の利用」における4つの施策】

  1. 化学産業の将来の炭素需要を持続的に賄うための全体構想の策定
     2026年までにNKWS、NABIS、NWSの内容も踏まえて、ドイツの化学産業の目指す方向性を確立させる。その中では、CCU製品や原材料の輸入に関しても詳細な検討を実施する。例えば、輸入されたCCU製品の持続可能性基準の開発や化石炭素源の段階的廃止に向けたインセンティブ構造と資金調達制度の構築などが挙げられる。
  2. CO2の法的地位の明確化
     CO2を産業資源として認めるためには、個別に審査・承認を行う必要がある。従い2025年までに、ドイツの循環経済法(Kreislaufwirtschaftsgesetz ; KrWG)[v]におけるCO2の産業資源としての在り方に関して検討を行う。またドイツ政府は、CO2の分類をさらに明確にするためにISO規格を精査し、欧州レベルまたはドイツの工業規格(DIN:ドイツ工業規格Deutsches Institut für Normungの略称)でのCO2分類基準の開発を検討する。
  3. CCUの許容性
     CCU拡大のためには、EU-ETSの対象となることが極めて重要である。EU-ETS指令第12条(3b)に基づく現在有効な委任法では、CCS製品内での化学結合の永続性に関する要件が定められている。2026年に予定されているETS指令の見直しにおいて、欧州委員会は第12条(3b)の狭い制限を超えて、EU-ETSにおける製品製造にCCUをどのように適用できるかを検討する予定となっている。
  4. 様々なCO2起源に対する排出源保証システム
     ドイツ政府は、様々な起源のCO2が混合されている場合に、生物起源、化石起源、大気起源のCO2についてバランスシート上で区別するために、2026年までにCO2起源を検証する手順の大枠を開発する予定としている。

CMS草案における行動分野「CCS/CCU立ち上げのための市場枠組みとインセンティブ制度」における10の施策

  1. 気候に配慮した基礎材料の市場創設
     気候に配慮した材料(例: ゼロカーボンコンクリート)の市場を拡大するために公共調達やEUレベルでの規制を活用し、低炭素製品の需要を促進。事業者においては自主的なCO2ラベル導入も進行中している。
  2. 化石燃料の前段階排出への価格付け
     2026年までに現行制度(EU-ETS, CBAM)に含まれない排出(例: 化石燃料の採掘段階)にも価格付けを検討し、製品のカーボンフットプリント(CFP)を考慮した追加的な価格付けを実施する可能性を探る。
  3. 廃棄物処理施設へのインセンティブ
     2026年までに廃棄物処理施設へのCO2削減技術導入支援を開始。
  4. 生物起源CO2の分離と活用の推進
     2026年までに国家バイオマス戦略(NABIS:National Biomass Strategy)に基づく追加的なインセンティブを開始。
  5. 気候保護契約(Klimaschutzverträge)による支援
     気候保護契約とは、炭素差額決済(Carbon Contracts for Difference、CCfD)の仕組みを活用し、企業が脱炭素技術を導入する際に発生する追加的な資本的支出(CAPEX)および運営費用(OPEX)を補助する支援策である。弊社NEWS(2023年6月13日公開)にて詳細を説明している。
  6. 産業と気候保護の連邦支援(Bundesförderung Industrie und Klimaschutz ; BIK)を活用した初期のCCS/CCUプロジェクト支援
     BIKとは、特に中小企業を対象に、化石燃料から再生可能エネルギーやグリーン水素へのプロセス転換を支援する制度で、ドイツ政府はCO2排出量の40%の削減を目指している。2030年までに約33億ユーロの助成が予算化されており、小規模で分散した拠点の支援を重視し、CO2輸送インフラの接続も助成対象となる。
  7. ドイツ復興金融公庫(KfW)を通じたクレジットプログラム
     国営金融機関であるKfWを通じて、企業のCCS/CCUプロジェクトに対して融資を実施している。
  8. インターモーダル輸送の支援
     複合輸送用ターミナル建設や鉄道輸送の支援することで、CO2輸送のための効率的な輸送オプションを整備。
  9.  研究開発の支援
     CO2分離技術やCCU技術の研究プロジェクトを支援。
  10. 戦略的越境CO2インフラプロジェクトの支援
     EUのインフラプロジェクトの支援施策である「Connecting Europe Facility(CEF)」を活用し、重要な越境プロジェクトを推進。

 2024年10月15日、ドイツ経済・気候保護省(BMWK)は、化学、製紙、ガラス産業の大企業のほか、中規模企業も含む15企業と気候保護契約を締結したと発表した。[vi]BMWKの発表によれば、補助額は15年間にわたって最大28億ユーロの見込みである。気候保護契約は、グリーンまたは低炭素の水素(メタン、アンモニア、メタノール、合成燃料などの水素派生物を含む)やバイオマス、二酸化炭素(CO2)の回収・有効利用・貯留(CCUS)の活用によって脱炭素化を図ろうとする工場に対して、費用対効果や温室効果ガス(GHG)排出削減量といった評価項目に基づく入札を経て、15年間の支援を行う制度である。CCU技術に関しても、支援の対象にはなっているが、第1回の入札案件の中にはCCUを活用したものはなかった。
 しかしながら、BMWKが発表によれば2024年7月29日から開始された気候保護契約の第2回入札においては、CMSに沿ってCCUS技術に焦点を当てた候補者選定が実施されるとなっている。予定通りであれば、本年末までに第2回の入札結果が公表されることになるが、CCU技術を採用したプロジェクトも支援対象に選出されることが期待される。

 本稿では、ドイツにおけるCCUへの支援政策を紹介させていただいた。ドイツ政府はCCS/CCU技術を2045年気候中立実現に向けた中核技術と認識し、手厚い支援を実施していく方針にあることが分かる。弊社は今後のEUにおける展開も含め、ドイツ国内でのCCU導入拡大の動きを注視し紹介していく。

引用

[i] chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.kreislaufwirtschaft-deutschland.de/fileadmin/user_upload/Mediathek/NKWS/nationale_kreislaufwirtschaftsstrategie_bf.pdf

[ii] https://www.bundesregierung.de/breg-de/aktuelles/carbon-management-strategie-2289146

[iii] https://www.bmuv.de/en/download/key-points-of-a-national-biomass-strategy-nabis

[iv] https://www.bmwk.de/Redaktion/EN/Hydrogen/Dossiers/national-hydrogen-strategy.html

[v] https://www.gesetze-im-internet.de/krwg/

[vi] https://www.klimaschutzvertraege.info/news/habeck_ueberreicht_klimaschutzvertraege