欧州航空業界の「2050年ゼロエミッション」に向けた取り組み                                                                                               
~矢継ぎ早に投入する多くの政策と資金投入で世界に先駆けた展開に~

(文責:坂野 佑馬)

 欧州の航空業界では、2050年までにゼロエミッション(温室効果ガス(GHG)排出量ゼロ)の達成を目指した展開が行われている。
 2022年2月4日に欧州委員会(EC)、EU加盟27カ国、英国、スイス、ノルウェー、アルバニア、グルジア、アイスランド、モルドバ、モナコ、サンマリノ、セルビア、さらに欧州航空業界関連企業・団体の代表者らが一堂に会し、「2050年までに欧州航空業界のゼロエミッション達成」を目指す官民連携イニシアチブである「トゥールーズ宣言」※1に署名を行った。この「トゥールーズ宣言」の中では、5つの欧州航空協会(ACI EUROPE、 Airlines For Europe (A4E)、 Europe's Regional Airlines Association (ERA)、 Civil Air Navigation Services Organization (CANSO)、Aerospace and Defense Industries (ASD))によって2021年2月に採択された欧州航空業界の脱炭素化ロードマップ「Destination 2050」※2や、航空輸送行動グループ(Air Transport Action Group:ATAG)が2021年9月に取りまとめた世界規模での同様のロードマップ「WayPoint 2050」※3の重要性を改めて強調している。「Destination 2050」と「WayPoint 2050」では共通して「ゼロエミッション航空機(水素航空機や電気航空機)の開発」、「SAF(Sustainable Aviation Fuel)の導入」、「排出権取引等の経済対策」、「航空交通管理の見直し」が重点施策であると提言している。
 また、EUにおいては、かねてより2050年におけるゼロエミッション実現のために複数の資金調達プログラムを通じて航空業界へ多額の投資を行ってきた。その1つである「Horizon Europe」※4は955億ユーロの予算が計上されているEUの研究・技術開発のための資金調達プログラムで、2021年2月23日には脱炭素化やデジタル化へ貢献する10の官民共同パートナーシップを設立し、約100億ユーロを提供すると発表している。このパートナーシップの1つである「Clean Aviation Partnership」※5には17億ユーロが充てられており、「2035年までにゼロエミッション航空機の運航を可能とするために、2027~2029年までに必要な技術を確立すること」を目標として活動している。

■AZEAの達成目標

 これらのゼロエミッション達成へ向けた方策に続いて、ECは「Alliance for Zero-Emission Aviation (AZEA)」※6と呼ばれる官民連携イニシアチブの発足を2022年6月24日に発表した。AZEAはゼロエミッション航空機の運航開始に向けて、以下の3点を達成目標として活動していくとしている。

  1. 航空機のCO2排出量削減
     ECによれば、航空業界は世界全体のCO2総排出量の約3%を占めており、グリーンテクノロジーへの移行が急務とされている。水素(エンジン、燃料電池)とバッテリーの技術開発を推進することで、飛行中のCO2排出量をゼロにする。
  2. 航空輸送システム全体の横断的な調整
     機体はもちろんのこと、空港、空路、運航管理やエネルギー網の配備に渡るまで全てを刷新し、省エネ化・脱炭素化させていく必要がある。
  3. ゼロエミッション航空機の商業化
     旅客機は今後20年で44,000機以上が新たに市場に投入されると予想されている。ゼロエミッション航空機の潜在的な市場規模は、2050年までに26,000機、総額は5兆ユーロと見積もられている。

■「ConnectingEurope Days 2022」での活用技術

 脱炭素化に向けて実験的な導入プロジェクトも展開している。2022年6月28日に仏・リヨンにて「ConnectingEurope Days 2022」という交通・モビリティ関連のイベントが開催され、以下の技術の活用でリヨン空港へ向かう一部フライトのCO2排出量が試験的に最小限に抑えられた※7

  1. 最適な航路
     通常は軍用に確保されている空域を利用することで、より直接的な新しい航路が可能になり、リヨン空港の進入空域への軌道と降下が改善された。これは、欧州の航空交通管制の管理と計画を行っている機関であるEUROCONTROL、11カ国の航空ナビゲーションサービスプロバイダー、各国軍当局が連携することで実現したものである※8
  2. SAFの導入
     燃料全体に対し30%のSAFを導入し、従来の燃料使用と比較して1便あたり27%のCO2排出量削減を実現している。
  3. カーボンニュートラルな空港経営とインフラ
     リヨン空港は、「空港カーボン認証」において2017年にオフセットによるカーボンニュートラルを達成している。 現在は、2026年までに事業範囲内でCO2排出量を完全にゼロにするフランス初の商業空港となることを目指している。

 通常は軍用に確保されている空域を利用することで、より直接的な新しい航路が可能になり、リヨン空港の進入空域への軌道と降下が改善された。これは、欧州の航空交通管制の管理と計画を行っている機関であるEUROCONTROL、11カ国の航空ナビゲーションサービスプロバイダー、各国軍当局が連携することで実現したものである※8
 また、リヨン空港はAirbus社およびAir Liquide社と提携して、水素利用を開始する実証空港となる。フェーズ1として、2023年より水素供給ステーションを設置し、空港内のバス、トラック、大型貨物車などの地上車両に水素を供給する予定である。フェーズ2では、2023年から2030年までに水素を燃料として利用する航空機への液体水素の供給インフラを整え、2030年以降のフェーズ3ではオンサイトでの液体水素の製造・貯蓄・供給を展開していく計画である。加えて、Airbus社は、「ZEROe」という民間で世界初のゼロエミッション航空機を2035年までに開発する計画を進めている。この航空機は液体水素を燃料とし、水素タービンで燃焼させ、さらに水素燃料電池でタービンを補完する電力を生成するハイブリッド電気推進システムを搭載する予定である。

 これら以外にも欧州問わず世界的にSAF開発が推進されている。このことに関しては、弊社NEWSでの4/1掲載の記事を参考にしていただきたい。

引用

※1 トゥールーズ宣言原文

https://presidence-francaise.consilium.europa.eu/media/2hkh2v33/declaration-de-toulouse-pfue-ang_fr.pdf

※2 Destination 2050

https://www.destination2050.eu/wp-content/uploads/2021/03/Destination2050_Report.pdf

※3 WayPoint 2050

https://aviationbenefits.org/media/167417/w2050_v2021_27sept_full.pdf

※4 EC_Horizon Europe概要

https://ec.europa.eu/info/research-and-innovation/funding/funding-opportunities/funding-programmes-and-open-calls/horizon-europe_en

※5 EC_2021年2月23日、新たなパートナーシップの設立を発表。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_21_702

※6 EC_Alliance for Zero-Emission Aviation

https://defence-industry-space.ec.europa.eu/eu-aeronautics-industry/alliance-zero-emission-aviation_en

※7 DESTINATION2050_2022年6月28日、リヨンへのフライトは航空業界のグリーン化の可能性を示す。

https://www.destination2050.eu/flights-to-lyon-demonstrate-potential-for-greening-of-aviation/

※8 ALBATROSS_欧州の主要な航空関係者によるイニシアチブで2年間の超大型SESAR(Single European Sky ATM Research)実証プロジェクトである。

https://www.dlr.de/ft/en/desktopdefault.aspx/tabid-17433/

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