(文責:青野 雅和)
「環境再生(保全)型農業:“Regenerative farming“」という言葉をお聞きしたことはお有りだろうか?
農業における脱炭素化を進めるには、中小企業の経営者意識と同様に「脱炭素化を進めることが自身にどのようなメリットに繋がるのか」を理解頂くこと、そのエコシステムを確立できないと中々推進していただくことは難しいと考えている。その意味で本稿では農業の脱炭素化の一つの推進手法として“環境再生(保全)型農業:Regenerative farming“の動きについて紹介したい。
- 環境再生(保全)型農業:“Regenerative farming“とは?
“Regenerative farming“は従来の農業の進化形であり、水やその他の投入物の使用を減らし、土地の劣化や森林破壊を防ぐ。すなわち、土壌、生物多様性、気候耐性、水資源を保護し、改善しながら、農業の生産性と収益性を高める農業と定義される。
日本では、環境再生型農業もしくは環境保全型農業とも呼ばれており、令和3年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」では、化学農薬、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を低減することや、耕地面積に占める有機農業の取組面積の拡大などを目指している。
“環境再生(保全)型農業Regenerative farming“の実施によって、土壌を豊かにすることが、脱炭素化や生物多様性を維持するもしくは高めることに繋がること。また異常気象に適応すべきであることから、日本の農家の方々は、今後考慮すべき農業に移行していく道筋となるであろう。
有機農業の実践は日本でも展開されているが、“Regenerative farming“は気候変動対応と適応に関する視点が新しく加わった考え方なのである。
- “環境再生(保全)型農業:“Regenerative farming“は気候変動に対応した農業
“Regenerative farming“は農家が気候変動に適応するために、新しい気象パターン、生育期の短縮、干ばつ、豪雨など、それぞれ特有の気候課題を特定し、それを克服するための適切な方法を見出すのに役立つはずである。既に日本各地で異常気象が生じていることは周知の事実であり、対象を絞った適応策を講じることで、農家は気候変動の悪影響からの回復力を高めることが可能となるのである。
- 世界の動き
2017年にアウトドアブランドのパタゴニアがロデール・インスティテュート[i]等の複数の団体と協同で、食品と繊維の世界最高水準である「リジェネラティブ・オーガニック認証[ii]」をローンチしている。
また、2019 年 9 月 23 日にニューヨークで開催された国連気候行動サミットでローンチされた「The One Planet Lab[iii]」内でスタートし、ダノンやネスレ、ペプシコなど26企業で構成される「One Planet Business for Biodiversity (OP2B)[iv]」が2024年に9月に5年が経過し、36億ドルの投資、30万人の農家がプログラムに参加、2030年までに再生型農業の面積は1,250万ヘクタールに達し、すでに390万人が影響を受けていると報告している[v]。
- ドイツのKlim社は環境再生型農業支援のアプリを構築
ベルリンを拠点とする2020年設立のアグリテック企業Klim[vi]は、農場がより容易に環境再生型農業に転換できるよう取り組んでいる。そして同社はBNPパリバが主導するシリーズAの資金調達ラウンドで、欧州のアグリテックのスタートアップ企業の調達金額としては最も高額な2,200万ドルを確保した。
農家はKlimが提供するアプリを利用することで、農家は環境再生型農業への移行を計画、実行、資金調達するために、「土壌の健全性、生物多様性の回復、炭素の捕捉、排出量の削減」に関するデータを得ることが可能となる。
図 Klimのアプリを通じて食品企業にクレジットの販売と保証を提供可能となる
出典:Klim HPより
出典:Klim HPより
このプラットフォームでは移行の進捗状況を追跡や、農産物の納入先への農産物の証明、隔離された炭素「インセット」に対する収益の支払いを受けることが可能となる。
Klimはサプライチェーンにリンクされた炭素「インセット」の販売に対して手数料を受け取り、農家はKlimのマーケットプレイスで「インセット」を販売することで収益を得ることが可能となる。農家に対し、カーボンオフセットを収入として提供することを可能とした市場をプラットフォーム上で実現できていることが素晴らしい点である。
Klimは、過去4年間でドイツの農地の5%に相当する70万ヘクタールの土地に相当する3,500人の農家にサービスを提供している。そして、同社の顧客にはNestle、ドイツの大型スーパーKaufland、欧州大手ベーカリーグループのAryztaなどの大手企業が含まれている。
日本でも農林水産省の後押しによって、有機農業や環境再生型農業の支援が広がりつつあるが、日本では大手企業がアグリテックを展開しており、重労働からの解放に関する技術や農薬管理アプリの展開が現状と察する。ドイツの事例のように有機農業や環境再生型農業の推進が脱炭素化に繋がることが理解でき、農家の利益にも繋がるエコシステムとしての支援システムを構築できないと農家の気持ちを変えることが難しいかも知れない。
引用
[i] https://rodaleinstitute.org/
[ii] https://issuu.com/patagoniajp/docs/framework_regenerativeorganiccertified
[iii] https://oneplanetsummit.fr/en/one-planet-labs-work-2021-22-239
[iv] https://op2b.org/home/
[v] https://www.wbcsd.org/news/global-regenerative-agriculture-initiative-hits-major-milestones-as-collaborative-efforts-accelerate/
[vi] https://www.klim.eco/en