(文責: 青野 雅和)

 日本周辺の潮流は、黒潮、親潮、対馬海流など、いくつかの主要な海流によって形成されている。また、海峡や多くの多数の島の周辺でも独自の潮流が存在し、潮流発電のポテンシャルが大きいと評価されている。
 このように地政学的な潮流発電ポテンシャルは大きいにも関わらず、日本では潮流発電の事業化が進まない。何故、進まないのか?日本ブランドの潮流発電メーカーが不在だということ、造船産業が海外で隆盛し、日本の造船産業が相対的にが縮小していること、再生可能エネルギー事業として商用事例が少ないことがあげられるだろう。

 筆者は15年に渡り、海洋エネルギー市場を見ているが、現状の潮流発電市場は昔と変わらず州が先行していると感じている。実証事業や潮流発電製造の開発情報先が欧州であることが多いということが理由である。スコットランドのオークニー諸島に整備されている欧州海洋エネルギーセンター(EMEC: European Marine Energy Centre)や,ポルトガルのWave Energy Centreなどの実証試験サイトを活用して、製造企業はパイロットテストを行い、データを分析し開発を進めている。日本でも2012年3月9日に、海洋エネルギー資源利用を推進している団体である海洋エネルギー資源利用推進機構(OEA-J)とEMECが、実証試験場(日本版EMEC:JMEC)構築のために覚書を交わした。EMECは、JMEC構築のためのデザインや整備、運用等について、アドバイスや支援を提供するとしていたが、現時点で残念ながら実現できていない。
 このように実証実験場が存在しない実情もあり、日本では潮流発電製造メーカーが出てこないのではなかろうか。現在稼働している潮流発電は、長崎県五島市椛島沖の環境省の実証プロジェクトのみであり、同サイトでの潮流発電設備は後述するSAE Renewables社のものである。然しながら、前述の長崎県五島市椛島沖は内閣府の実証フィールド及び再エネ海域利用法に基づく「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域:浮体式洋上風力」として選定されている。従い将来は洋上風力発電と同様に潮流発電事業海域が指定され、セントラル方式による入札で事業者が選定されていくと推察している。

 そして、筆者は洋上風力発電に続く海洋エネルギーとして潮流発電は10年以内に事業化されるのではと推測している。本稿では、水深の違う「海底、中層、表層」の各層で商業稼働している潮流発電事業者もしくは上市に近づきつつある潮流発電メーカーを紹介する。

海底設置:SAE Renewables社[i] 世界唯一の商業発電

 SAE(旧称:Atlantis Resources )は潮流発電及び蓄電池事業を展開している再生可能エネルギー会社。シンガポールに設立されているが、事業本部は英国スコットランドのエディンバラにある。
 2010年以来、ペントランド湾およびオークニー海域のリース契約の一環として、クラウン・エステート社はMay Genにリース契約を授与し、スコットランド最北端の海岸とストロマ島の間の沖合の敷地に最大398MWの潮流プロジェクト「May Gen」を開発している。May Genのサイトである3.5kmの海域は、スコットランド北東端からわずか2kmに位置し、英国で最も流れの速い水域の一部を占めている(図1)。この海域は、2007年にSAEによって特定された。調査では、早い水流、中程度の水深、そしてスコットランド本土への近さが、開発に最適な場所であると結論付けられている。

図1  May Genのサイト(スコットランド北東端)

出典:SAE Renewable HP

 現在第1フェーズが終了し、既に商用発電を行っている。同フェーズはANDRITZ Hydro Hammerfest 社製の1.5MWのタービン(図2)×4基で構成されている。各タービンは3枚のブレードを備え、ローター径は18m。これらのブレードはピッチングすることで、機械の設置容量を定格流速以上に維持。また、タービンにはヨーモジュールも搭載されており、干潮時にタービンを回転させて、次の干潮または満潮時に向きを変えることが可能となっている。
 第1フェーズは2018年3月から商業稼働しており、現在は第2フェーズとして、総発電規模は398MWの計画を進めている最中である。また英国政府が再生可能エネルギーや低炭素技術の導入を促進するために実施する「入札制度:英国割当ラウンド」の第4、5、6次ラウンドで、59MWの差金決済契約(CFD)を締結済しており、稼働開始はそれぞれ2027年、2028年、2029年となる予定。世界最大の潮流発電であり、市場をリードする事業である。

図2 海底に設置されているモノポールの潮流発電

出典:SAE Renewable HP

海水中層浮遊型:Minesto  AB社[ii] 6月に25%に能力向上

 Minesto AB は、ヨーテボリに拠点を置くスウェーデンの凧型潮流発電の開発会社です。また、北ウェールズのホリーヘッドに製造拠点を持ち、北アイルランドのポータフェリーで試験施設を持っている。
 同社の技術は、凧が風で揚がるのと同様の独自の特許取得済みの原理により、潮流と海流から電気を生成する。

  1. 翼は水中の流れによって生じる流体力学的揚力を利用して凧を動かす。
  2. 搭載された制御システムにより、凧(製品名:Dragon Class図3  参照)はあらかじめ設定された8の字軌道に沿って自律的に操縦され、実際の流速の数倍の水流でタービンを水中に引き寄せる。図4 参照。
  3. タービンシャフトは発電機を回転させ、テザー内の電力ケーブルと海岸までの海底の臍の緒を通して電力網に電気を出力する。
  4. 発電規模は100KW~1.2MW。

図3 Minesto AB社の凧型潮流発電システム Dragon Class

出典:Minesto AB

図4 Minesto AB社の凧型潮流発電の発電時の動き

出典:Minesto AB HP

 現在同社のDragon Classは、フェロー諸島のヴェストマンナスンドに設置されたDragon 12潮力発電システム(Luna)において、テザーを10メートル延長したことで、発電性能が25%向上したことを2025年6月16日に発表した。
 これにより、同社独自の凧型潮流発電システムの商業規模展開に向けた道筋が強化されたこととなり、Dragon 12(Luna)のアップグレードと設置を実施したシステムがシミュレーションで予測された通りの性能を達成したと2025年5月中旬に公表している。

海表面移動型: Orbital Marine Power社[iii] 米国で10年間の商業利用発電として申請

 同社は2021年に2MWの潮力発電「Orbital O2:図5参照」を進水させ、現在世界最大の潮力発電装置となっている。同社は2023年に開始したEUホライズン・ヨーロッパMAXBladeプロジェクトで、TechnipFMC社の主導により、潮力発電ブレードの長さを10メートルから13メートルに延長し、ブレードの掃引面積を70%増加を図っている最中である。
 加えて同社は、2023年9月に英国割当ラウンド5(AR5)において、7.2MWの差金決済契約(CfD)を2件獲得[iv]した。この結果により、同社は、現在差額契約制度の対象となっている6基のタービンを建設することで、オークニー諸島におけるプロジェクト開発を拡大することを予定している。
 カナダでも実証を展開している。カナダにおける潮力エネルギーの研究と実証を主導する施設Fundy Ocean Research Centre for Energy (FORCE)において、カナダの潮力発電開発会社であるEauclaire Tidal’s technology社がOrbital Marine Power社の次期型潮流発電:2.4MWの購入契約を締結している。
 また、同社はアメリカでも実証を展開する予定だ。昨年3月には米国エネルギー省(DOE)が潮力エネルギーの研究、開発、実証パイロットサイトの開発のために600万ドルの助成を受ける2つの海洋エネルギープロジェクトに選定されたOrcas Power & Light Cooperative (OPALCO)社の、ワシントン州ロザリオ海峡のブレイクリー島沖の潮流発電実証事業の技術パートナーとして承認された。なお、2025年3月にはOPALCO社はロザリオ海峡潮力発電プロジェクトに関する10年間のパイロットプロジェクトライセンスの取得を目的としたライセンス申請書(案)を連邦規制委員会(FERC)に提出した[v]。Orbital Marine Power社は複数の欧州及び北米での実証を経て商業利用での潮流発電に選択されようとしている。

図5  Orbital Marine Power社 2MWの潮力発電Orbital O2 

出典:Orbital Marine Power社 HP

 エジンバラ大学の公表によれば、英国の潮流発電は2050年に6.2GWとなり、英国全体の発電容量320MWの2%強を占めることとなる。また、2030年には均等化発電原価は13.44 円[vi]/kWh (80€/MWh)になるという。2023年第2四半期の世界における洋上風力発電の均等化発電原価は11.49円[vii]まで下がってきており、日本の洋上風力発電の第一ラウンド(2021年)の秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド(着床式)の落札者の供給価格(FIT制度適用のため調達価格)は13.26円/kWhであった。
 日本でも潮流発電の事業検討がいくつか存在しているが、風車と同様に日本のメーカーは存在しない。その意味で事業者は海外メーカーを選択し事業検討を行う状況となっている。重要なのは稼働リスクであるが、スコットランド、カナダ、米国で実証が進んでいる状況を鑑み、情報を取得することでヘッジできるのではないかと思料する。潮流発電事業は十分に事業化を検討する価値がある段階に近づきつつあるのではなかろうか。

引用

[i] https://saerenewables.com/

[ii] https://minesto.com/

[iii] https://www.orbitalmarine.com/

[iv] https://www.orbitalmarine.com/orbital-marine-power-awarded-2-cfds-ar5/

[v] https://www.opalco.com/opalco-files-a-draft-license-application-with-federal-energy-regulatory-commission/2025/03/

[vi] 2025年7月3日のレート

[vii] BloombergNEFのデータ(2H 2023 LCOE: Data Viewer Tool)を基に資源エネルギー庁作成。為替レートはEnergy Project Valuation Model (EPVAL 9.2.8)から各年の値を使用。